あ、これ方言だったの?

[投稿日] 2017-07-30
[更新日] 2021-08-28


私は25歳で最初の会社を辞めて上京したので、50歳になるということは、すなわち四半世紀を江戸住まいで過ごしたことになります。

新潟を離れたのは大学を出てすぐ、23歳になる年でしたが、地元企業の営業所への配属ですから同郷の社員と一緒にいましたし、会議などで本社に出向く機会も多く、長いこと方言を耳にせず生活する、という経験はやはり上京してからになります。

パートナーも同郷ではあるものの、出身はほかの地方で私ほどドップリと新潟弁に浸かっていたわけでもなく、東京で生活を共にすることになってからの家庭内の会話は概ね標準語で、たまに面白がってコアな新潟弁を使うくらいです。

新潟県は東西に長いため、地域によって言葉が多少違います。ここでいう新潟弁は「狭義の」というか、新潟市内で使われている方言と思ってください。まあ、実際には市内でも地域によって多少の違いがあるんですが、そこまではちょっとf^_^;;

新潟弁は標準語に対してイントネーションやアクセントよりも独特な助詞や単語によって違いが生じているような印象があります。なので、助詞に気をつければ比較的容易に標準語に馴染める一方、つい口をついて出てくる新潟弁ならではの単語で「エ? ナニソレ?」と相手を驚かせてしまうことが多いのです。

つい先日も、知人が飲み物でむせたので「穴違い、大丈夫?」といったら涙目で「ゲホゲホッ、アナチガイ? ゴフッ、ナニソレ? ガハッ」と返されました。

飲み物などが食道ではなく気管支に入ってむせることを「穴違い」というのです。「違う穴に入る」というそのまんまな言葉……断じてシモネタではないのだよ……なので、この歳になるまで全国区の言葉だと思ってました。

同郷の友人はひどい風邪で寝込んだ折、看病にきてくれた恋人に「調子どう?」と聞かれて「……なんぎー……」といって、これまた「ナンギイ? ナニソレ?」と聞き返されてヘコんだそうです。気持ちがわかります、新潟人ならたぶん。

「ものすごく」付きでツラい、しんどい、気分が悪い、疲れた、などの状態を「なんぎ」といいます。「難儀」から派生している、かどうかは調べたことがないのでわかりませんが。

私の義兄も同郷人で、あるスポーツの選手だったのですが、遠征先の試合会場で落とし物を見つけ、近くにいた他チームの選手に「これってあんたのがん?」と尋ねたら「……フッ(←鼻で笑う)君の地方ではリストバンドのことをガンていうの?」といわれてムカついたそうです。

はい、ここでいう「がん」とは「もの」を表わしており、義兄の言葉を標準語にすると「これは君のもの?」になります。

ちなみに目上でない知らない人に対する「あんた」はわりとフレンドリーな表現です。ちょっと丁寧なのが「おめさん」(お前さん)、逆にちょっと雑なのが「おめ」(お前)、さらに雑なのが「てめ」(てめぇ)て感じかな。

ほかのお国言葉同様、独特な言葉…‥「どう?」が「なじ?」、「側溝」が「えんぞ」、「触る」が「ちょす」、「動く」が「ずる」、「怠け者」が「のめしこき」、「刺さる」が「くったたる」、「いっぱい」が「いっぺこと」、「十分、たくさん」が「よっぱら」、「捨てる」が「べちゃる」、「強い、勢いがある」が「がっと」などなどなど……が山のようにありつつ、上述したように標準語ライクなイントネーション・アクセントのままそれを出してしまうのが新潟弁を使う人間ならではなのかな、と思います。


とはいえここに独特な助詞が加わったらもう、ということで、先日の大雨の見舞いに実家に電話したときの父との会話を再現してみましょう(多少盛りますよ)。

「純和らけど、雨なじ?」
(純和だけど、雨はどんな感じ?)
「おー、オレとこあたりはそうでもねーれ。○○市でえんぞが溢れたみてらけど」
(ああ、うちのあたりはそうでもないぞ。○○市で側溝が溢れたらしいけど)
「そうけ、よかったわ。こっちのニュースらと市内の雨もがっとらいうてたすけ」
(そう、よかった。東京のニュースだと市内の雨も強いっていってたから)
「まあがっとはがっとらな。もうよっぱらて感じらわ」
(まあ強いことは強いな。もうたくさんて感じだよ)
「はよ止むといんだろもね」
(はやく止むといいんだけどね)
「ほんのきら。まま、ありがとな、おめも気をつけれや」
(ホントだよ。まあ、ありがとうな、お前も気をつけろよ)
「うん、ありがとね。また盆にけえるすけ」
(うん、ありがとう。またお盆に帰るから)

同郷人と新潟弁で話していたら、横で聞いていた東北出身の方に「新潟弁恐い」といわれたことがあるけど、そうけ?

今年の夏も帰ります、ということで、ちょっと里心がつくネタに。ちなみに『うる星やつら』のラムの言葉は佐渡弁由来ではないらしいぞ、そう信じてる新潟人多いけど。